神経血管圧迫症候群(三叉神経痛、片側顔面痙攣、舌咽神経痛)に対する我々の外科治療

 

血管が脳神経を圧迫することにより症状が出る疾患は、神経血管圧迫症候群と呼ばれています。それらには、三叉神経痛、片側顔面痙攣、舌咽神経痛などがあります。三叉神経が上小脳動脈により圧迫され三叉神経痛が生じ、顔面神経が前下小脳動脈により圧迫され片側顔面痙攣が生じ、舌咽神経が後下小脳動脈により圧迫され舌咽神経痛が生じるわけです。これらの疾患に対して、薬物治療やブロック治療を行うだけでなく、病状が進行された患者さんには脳外科医ジャネッタが考案した後頭蓋窩神経血管減圧術(ジャネッタの手術)を盛んに行っております。

顔面痛の一つの三叉神経痛は、歯科、耳鼻科などとの境界領域なので、しばしば他の疾患と鑑別が困難です。私共は、顔面痛のある患者さんに対して入院検査(約1週間)による鑑別診断も行っております。

神経血管減圧術で治癒できる典型的三叉神経痛の特徴は、

  • 片側の三叉神経支配領域(顔面)に起こる発作性の反復する激痛。
  • 痛みの持続は1秒から30秒くらいと大変短く、1日に数回おき、時として数ヶ月から数年の休止期があるが再発する発作性。
  • 会話、食事、洗顔、歯磨きなど顔面の運動で誘発される顔面痛。
  • 顔面や口腔内に発作を起こす引き金となる部分、トリガーポイントがあり、触れると痛みが誘発される。

などです。特に神経痛の発症早期は歯痛と紛らわしく、よく似ているので病歴聴取からの注意深い鑑別が重要です。私共の所へも歯の治療で改善されず、それで初めて三叉神経痛と診断された患者さんが多く受診されます。

神経血管減圧術による手術治療は、副作用のため薬が継続できない場合や、患者さんの年齢が若く根治治療を希望される場合に行います。手術は耳の後方から毛髪線に沿って切開し、三叉神経を圧迫している小脳動脈を確認し、神経を再度圧迫しないように、血管を移動させます。そのため、剃毛は手術側の耳介後部のみで十分です。この手術によって95%以上の患者さんの症状が消失または改善します。顔が勝手にピクピクする片側顔面痙攣でも、また咽頭から耳へかけての発作性疼痛の舌咽神経痛でも同様の手術で、95%が治癒できます。

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